ハプティクスを設計する
ハプティクスと呼ばれることも多いハプティックフィードバックは、ユーザーの肌を通して情報やフィードバックを提供します。
ハプティックフィードバックには、例えば以下のようなものがあります。
- 触覚ボタン: タッチスクリーンや仮想インターフェイスを使用する際に、ハプティックフィードバックを統合して物理ボタンを押す感覚を再現することができるため、仮想ボタンがうまく起動したことをユーザーに伝えられます。
- 通知とアラート: 通知と警告にハプティックフィードバックを使用することでユーザーの注意を引くことができます。これは特に、ユーザーが画面を注視していない場合に効果的です。振動の強度、周波数、リズムを調整して、通知や警告の緊急度や深刻度を表すことができます。
- ゲーム内フィードバック: ゲームコントローラーとウェアラブルデバイスは、さまざまなイベントのフィードバックを提供することでゲーム内体験に貢献し、プレイヤーの行動に関する情報を伝えたり、全体的なゲームの没入感を向上させたりすることができます。ハプティックフィードバックの周波数、アタック、強度を調整することによって、草や雪、木といったさまざまな表面上を歩く感覚を振動によって模倣することができます。
- ミックスドリアリティにおける複雑なオブジェクト: ミックスドリアリティ(MR)システムにおいて、ハプティックフィードバックは、「カップを持つ」「仮想キーボードをタイプする」といったような仮想オブジェクトに関するアクションをシミュレートするツールとして、没入感のあるMR環境に触覚の要素を加えることができます。
アクティブなフィードバックを生み出す要素は、ハプティックアクチュエーターと呼ばれます。ハプティックアクチュエーターは設計意図を振動として表します。
Meta Haptics Studioは、ハードウェアに依存しないハプティクス設計を提供します。ただし、ハプティックの設計者として、さまざまなハプティックフィードバックを生み出すアクチュエーターの種類を理解しておくことは有益です。
VCM: ボイスコイルアクチュエーター
幅広い周波数範囲をもつボイスコイルモーター(VCM)は、穏やかな振動から鋭く強力な衝撃まで、精密かつ制御された触覚フィードバックを提供することに優れた電磁アクチュエーターです。この特徴により、目的とする触覚を非常に正確に模倣する、現実的なハプティックフィードバックを作り出すことができます。
VCMは、ARまたはVR、スマートフォン、ゲームコントローラーなど、フィードバックが求められるアプリにおいて、ERMやLRAに替わるアクチュエーターとして徐々に普及しています。
LRA: リニア共振アクチュエーター
リニア共振アクチュエーター(LRA)は、単一の共振周波数の振動を作り出します。LRAはERMと異なり、周波数から独立して振幅を変えることができるため、よりダイナミックな効果を実現します。
LRAは小さく、高いエネルギー効率をもつ傾向があります。ただし通常は、大きなERMが生み出すような振動強度を提供することはできません。
ERM: 偏心回転質量
偏心回転質量(ERM)アクチュエーターは、シンプルな振動と触覚を生み出すために使われる、簡易的で費用対効果の高い技術です。ERMが起動すると、不均衡の質量(通常は軽量)が、偏心軸の周りを回転します。この回転運動は、ユーザーが認知可能な振動を生み出します。
ERMは、LRAやVCMに比べて制御の度合いが低く、細かい振動を生み出します。ただし、鋭い衝撃を生み出したり、複雑な触覚を伝えたりすることはできない可能性があります。
Quest 3、Quest Pro、および2022年以降に発売されたデバイスは、広帯域ハプティクスに対応しています。
| |  |  |  |
|---|
| | Quest 2 | Quest Pro | Quest 3 |
|---|
アクチュエーター | 狭帯域LRA | 広帯域VCM | 広帯域VCM |
機能 | 振幅制御付き単一周波数: シンプルな信号 | 周波数と振幅制御: シャープで精密なクリック、複雑なシグナル | 周波数と振幅制御: シャープで精密なクリック、複雑なシグナル |
使用事例 | 基本的なフィードバック: 通知、確認、イベントに関するインタラクション | 基本的な没入型フィードバック: ナビゲーション、キャラクター、環境に関するインタラクション | Quest Proと同じ(ただしアウトプットの強度はやや低い) |
| | Quest 2 | Quest Pro | Quest 3 |
|---|
アクチュエーター | 狭帯域LRA | 広帯域VCM | 広帯域VCM |
機能 | 振幅制御付き単一周波数: シンプルな信号 | 周波数と振幅制御: シャープで精密なクリック、複雑なシグナル | 周波数と振幅制御: シャープで精密なクリック、複雑なシグナル |
ユースケース | 基本的なフィードバック: 通知、確認、イベントに関するインタラクション | 基本的な没入型フィードバック: ナビゲーション、キャラクター、環境に関するインタラクション | Quest Proと同じ(ただしアウトプットの強度はやや低い) |
あらゆるアプリやゲームで、Questコントローラーのハプティックアクチュエーターの機能をフル活用し、カスタムハプティックエフェクトを実現することができます。Meta Haptics SDKは、ネイティブSDKとしてUnrealとUnityでも利用可能です。
MacおよびPC用のMetaハプティクススタジオは、オーディオアセットからカスタムハプティクスを素早く生成し、Questハードウェアでリアルタイムにオーディションするためのデザインフロントエンドを提供しています。
Studioで設計したカスタムハプティックエフェクトは、Quest Pro、Quest 3以降で最も効果的に機能します。また、このエフェクトはQuest 2と逆互換性があります。
ハプティクスを設計する前に、ハプティクスに関する重要な特徴と設計アプローチについて考えてみましょう。
親密なインタラクション: ハプティックフィードバックは触覚に依存するため、人によって感じ方が変わる親密な体験といえます。ハプティックフィードバックは、インタラクションに感情的な側面を加え、人間の触覚を利用した信頼性の高い体験を提供します。
限定的な情報の伝達: ハプティックフィードバックが効果的に伝えられる情報の量は限られています。過度な情報で触覚を刺激しすぎると、ユーザー体験に悪影響を与える可能性があります。
触覚記憶の短さ: 人間の触覚記憶は、音声記憶や視覚記憶ほど長く保持されません。ハプティック設計者にとって、ハプティクスのA/Bテストは、音声や視覚のA/Bテストよりも難しいものとなります。エンドユーザーの経験については、ユーザーの記憶負荷を最小限に抑えるため、想起ではなく認識を目指しています。
過度な使用を控える: ハプティクスはどんな経験にも深みを加えるものの、全体的な経験がハプティクスに焦点を当てることを意図している場合を除き、その使用はごくわずかにとどめる必要があります。効果的なハプティクスというのは、なくなって初めてその存在に気づくほど、さりげなく使われているものです。
同期再生: ハプティクスはマルチモーダルコンテキストで最も効果的に機能します。つまり、オーディオ体験やビジュアル体験にアクセントを加えるような使い方がおすすめです。ユーザーがオーディオ、ビジュアル、ハプティクスを1つのイベントとして認識できるように、これら3つの要素の同期を検討することが設計者に求められます。
- アクションに関連させる: ハプティックエフェクトで大切なのは、一貫して使用すること、そしてハプティックとその引き金となるアクションとの間の明確な因果関係が強調されるように設計することです。
- フィードバックシステム: 視覚的フィードバックや音声でのフィードバックなど、アプリ内のほかのフィードバックを補完する方法でハプティクスを使用しましょう。音声、動画、ハプティクスの同期に注意を払います。
- ハプティックのバランス: ハプティックの使いすぎを避け、大部分のユーザーにとって効果的となるようなバランスを目指しましょう。
- ハイペースのアクションゲームでは、慎重な検討を行ったうえでハプティクスを優先して取り入れ、長く重複したハプティックエフェクトは避けるようにします。
- ホワイトスペースを活用: ハプティクスは、小休止を挟んで肌を休ませることで、その衝撃を強めることができます。緩急のアクセントをつけて、一瞬一瞬が強調されるようにしましょう。
- ユーザーに選択肢を与える: ハプティクスを任意項目にして、希望に合わせて停止やミュートができるようにします。
- ダイナミックエフェクト: ユーザーのインプットや視覚音声的なコンテキストに基づいて、動的なバリエーションをもつカスタムハプティックエフェクトを設計します。柔らかい音は柔らかいハプティクスに対応させる必要があります。
ハプティックの設計
ハプティック設計の領域において、没入感と満足感のある触覚体験をつくり出すために、構造化された枠組みを提供しています。このセクションでは、ハプティック設計の取り組みをサポートする方法的アプローチを紹介します。
ハプティック設計の取り組みは、以下の2つのどちらかに当てはまる可能性があります。
- ハプティクスの新規導入: 既存のハプティック要素が一切なく、プロジェクトを一から始める場合。
- ハプティクスのアップグレード: 既存のプロジェクトにおける初歩的なハプティックフィードバックの強化または置換。
どちらのカテゴリーにも、それぞれ難しさがあります。初歩的なハプティクスを持つ既存のプロジェクトはパラメーターを提供することができますが、新規プロジェクトの方が自由度が高く、創造性を発揮する余地があります。このような違いはありますが、ここで説明するプロセスはどちらのプロジェクトタイプにも当てはまるものです。
この段階では、効果的なハプティック設計の基礎を築きます。ここでの取り組みが、設計プロセス全体で十分な情報に基づいて意思決定を行うための土台となります。
インタラクションパターンを内在化する: インタラクションのパターンとフィードバックメカニズムを理解するために、早い段階でプロトタイプをテストします。
ユーザーニーズを特定する: ユーザーが真に求めるハプティック体験を細かく特定します。感覚的な手がかりが限定されている、または存在しない箇所を補完できる機会を見つけるようにしましょう。VRフィットネスアプリにおけるユーザーニーズの例: パワフルさを体感したい、フォームに関するフィードバックが欲しい、など。
設計意図を定義する: アプリ体験において、ハプティックフィードバックが必要となる領域を明確に定義します。効果的に定義された目的がないまま、ハプティクスの生成を始めることは避けるべきです。
ハードウェアの能力を考慮する: 設計対象のデバイスを理解し、その能力と限界を認識します。
ボディポジショニング: ハプティックなインタラクションを体の自然なモデルに合わせます。特定の種類のハプティック情報を、対応する体の領域にマッピングします。ハプティックフィードバックは、認識可能な音を生み出す可能性があることに留意してください。これは特に、デバイスが固い表面と接触している場合に当てはまります。
この段階では、ハプティック設計の可能性を探究します。
多感覚体験: ハプティクスは広範なフィードバックシステムの一部としてとらえる必要があります。ハプティックフィードバックは、ほかの感覚的なインプットと統合することで最大の効果を発揮します。多感覚的な体験は、ユーザーの反応を向上させ、タスク完了の助けとなり、学習を強化します。視覚的な合図や聴覚的な合図がハプティックフィードバックによって補完され、全体としてまとまりのある自然なユーザーエクスペリエンスとなるようにしてください。
現実世界のメタファー: まずは、現実世界のメタファーおよび期待される動作から始めます。しかし、物理世界での感覚を正確に再現するというよりも、設計のガイドとなるメタファーを想像するようにしてください。現実世界ではアクションとインタラクションがどう展開されているでしょうか。さまざまな要素が自分や自分の周囲とどのように相互作用しているでしょうか。慣れているエクスペリエンスであっても、物理的な制限に縛られないようにし、魔法のような非現実的感覚を作り出してください。
この段階では、制限とユーザーの好みのバランスを考慮します。
ユーザーコントロールと自由度: ハプティクスは任意機能とし、調整可能にしてください。ユーザーがハプティクスをミュートする選択肢を用意し、アプリのエクスペリエンスはハプティクスなしでも楽しめるものとしてください。ユーザーが、各自の好みと触覚の感じ方に応じてハプティックフィードバックの強さをカスタマイズできるようにしてください。
使用事例ごとの注意事項: ハプティックフィードバックは、仮想インタラクションへのユーザーの信頼感を高め、ユーザーが常にシステムのステータスを把握できるようにします。フィードバックは、ユーザーアクションに直接結び付いたものとし、エラー防止や通知など、即座の対応を促すものとします。バーチャル空間内でガイダンスやオリエンテーションを提供する手段としても活用できます。
一貫性と基準: アプリ全体を通じてハプティックインタラクションを一貫性のあるものとしてください。これがユーザーの学習を促進し、ハプティックパターンを特定のエクスペリエンスに容易に関連付けることができるようになります。認識や区別が容易なシーケンスを使うことにより、適切なタイミングで適切なフィードバックを届けることに重点を置いてください。
VRハプティックデザインにおいては、さまざまな設計アプローチをとることができます。
認識拡張: 触覚の自然な感覚を拡張し、ハプティクスを使ってデジタル幻想を作り出します。これは、物理世界の境界を超えた独特の感覚と感情を創り出すアプローチです。
リアリズム構築: 物理世界での触覚を再現することで、VRアプリやゲームに慣れ親しんだ感覚をもたらし、できるだけ現実に近いエクスペリエンスを実現します。
ハプティクスの設計において認識拡張を目指すのか、それともリアリズム構築を目指すのかという決定は、ゲームのユーザーエクスペリエンス(UX)の全体的な目標、また音声チームや映像チームが下す決定と密接に結び付いています。チームとの密接な連携を保ち、ハプティック設計の方向性がゲーム全体のさまざまな設計要素とうまく調和するように調整することが重要です。
ここまでのセクションで、VRエクスペリエンスのためのハプティック設計について、以下の基本原則を説明しました。
- 認識拡張かリアリズム構築かの選択。
- ユーザーの信頼感を高め、システムのステータスを把握できるようにし、一貫性を維持するための使用事例ごとの注意事項。
これらの原則を効果的に実施するには、実験を重ねて経験を積むことが非常に重要です。このようなプロセスにより、ハプティックフィードバックと、その没入型VR環境への統合に関係するさまざまなニュアンスを理解することができます。
Haptics Studioのサンプルリポジトリには、これまで説明した概念を適用する方法を示す例があります。これらの実用的な例から、複合現実の世界でユーザー中心の没入型エクスペリエンスを作り出すためのインサイトを得られます。